海外移住と親孝行

私は長い間、親を一人の人間としてではなく「親」として認識していた気がする。大学生の時、親が親としてではなく一人の人間として存在していることに気が付き、当然だと思う自分と、絶対的な「親」という存在が崩れたような気持ちになって少し悲しくなった。でもそれ以降は、両親と一人の人として話ができているような気がして、それはそれで少し嬉しかったりする。

関係性が悪いということでは決してないけれど、社会人になって一人暮らしを始めてからは両親と用事がある時以外に連絡を取ることはあまりない。でもトロントに両親が来てくれ、3日半一緒に過ごしたら、私の知らなかった両親についてあれこれと知ることができた。

特に父だ。父がとても楽しそうだったのだ。しかも楽しそうな雰囲気を隠すこともなく全力で楽しんでいた。父は仕事一筋で帰宅は毎日遅かったけれど、子育てにも参加していて、遊んでもらったり、テスト前には勉強を教えてもらったり、色いろな思い出があるが、これほどまでに楽しそうにしていた父は記憶にない。

父がトロントを楽しんでいて、私が教えた簡単な英語のフレーズを覚えてカフェで嬉しそうに注文していて、英語を勉強し始めようかな、と言ったり、これから年に1度は海外旅行に行きたいと笑顔で話す姿は、もう父ではなく一人の人間だった。

職場のお姉さんに、もう死ぬまでに両親と何回会えるかわからないのだから、後悔のないように親孝行しないとね、と言われて、そんな視点を全く持ち合わせていなかった私は、衝撃を受けて一気に悲しくなった。

両親からは年に1度は日本に帰国するように、と言われているが(今のところ守れている)、それさえも少し面倒に感じることもあったけれど、それはやはり必要なことのように感じられた。

私は両親の近くに住んでいる人がするような親孝行はできないけれど、カナダにいるからこそできる親孝行をしていこうと決めた。今まで両親が知らなかった海外旅行や海外生活を提供できるのが海外在住者の私のできることだ。というか今のところそれ以外には思い浮かばない。

トロントからはアメリカはもちろん、中南米にも行きやすい。日本人は観光ビザでカナダに6ヶ月間滞在できるので、リタイアしたら少し長く生活してもらうのもいい。準備をしつつその時が来るのを少し楽しみに待とうと思う。あとはたまには何もなくても連絡してみようかな。そんな小さな親孝行というかコミュニケーションから始めようと思う。

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です