「このようなこと（迫害）を繰り返さないためにはどうしたら良いと思いますか？」とイベントの質疑応答の場面で参加者の一人が発言した時、恥ずかしながら私は何も答えが思い浮かばなかった。

私は先日We Should Know Each Otherという日系カナダ人の団体のイベントに出席した。出席者は大体50人くらい。ダウンタウンにある教会の地下の集会所で映像を見て、カナダで起こった日系人の迫害や差別について共有し合った。

参加者は日系人やそのパートナー、子どもなどの関係者。日系人でもなければカナダ在住2年半という私はかなり珍しく、そして恐らく最年少だったと思う。私はカナダ在住40年で日ごろからお世話になっている方にこのようなイベントに度々声を掛けてもらうので、このような会に参加することができ、少しずつ知っている人が増えてきていることをありがたく思っているが、なかなか普通のカナダに滞在する日本人には知られていないイベントだ。

この団体ができるまで日系人の団体はなかったらしいが、Joy Kogawaさんという日系人作家が昨年設立したのだと聞いた。Joyさんはいつも会場にいらっしゃるので私も挨拶をさせていただくけれど、穏やかで柔らかい笑顔が印象的な、品のある素敵なおばあちゃまである。Wikipediaによると1935年生まれらしい。彼女もキャンプ（強制収容所）で過ごした経験があり、それが彼女の小説の舞台になっているらしいが、穏やかで品のあるその姿とキャンプ生活は結び付かない。

この団体の設立のきっかけの一つに、今までの自分たちの体験（迫害の歴史、特に強制収容所での生活）を共有し後世に残していく、ということがあるので、今回のようなイベントが開催され、冒頭のような質問が生まれるのだった。

この質問がされた後は、パネラーはもちろんのこと参加者も挙手をして発言するなど、様ざまな意見が飛び交った。その中で印象的だったものの一つに

今までの経験を多くの人に知ってもらい後世に語り継ぐこと

というのがあった。

この意見の背景にあるのは、キャンプ経験者は家族にでさえ、キャンプでの経験を語ってこなかったということがある。今回の参加者である日系3世の方が言っていたのは、祖父母も両親もキャンプでの生活を強いられたのに、家族内でそのことについて話されることは一切なく、大人になってからキャンプ生活時子どもだった両親から、当時いかに大変な生活を送ってきたかについて聞いて初めて知り、かなり驚いたということだった。

どこかで聞いたような話だな、と思った。これは戦争の話を家族でしない日本国内在住の戦争経験者と重なった。

実は私の祖父母、特に祖母は東京大空襲の時の話を繰り返し小学生の私にしてくれていた。話が恐すぎて話を聞いた夜は恐くて眠れなくなるほどだったけれど、今となっては話してくれた祖母に感謝している。本郷に住んでいた祖母は東京大空襲の時、東大の塀を登って東大内に入り、助かったのだと言っていた（アメリカ軍は東大には焼夷弾を落とさないことを周辺住民は知っていたのだ）。

とまぁ私はリアルすぎる話を聞いて育ったのだけれど、私と同じくらいの年齢の人は戦争体験を聞く機会もなく育っている人も多いと聞く。

それは日系人の歴史と同じく、辛い出来事を思い出したくないがために体験者が話をしてこなかったのが理由の一つだと思う。私たちの世代が戦争を知らない世代と呼ばれるのと同じように、カナダでは日系人の歴史を知らない世代が生まれているのだった。

繰り返さないためには教育することが大切だ

と言っている人もいて、その発言に対して会場では拍手が起こっていたけれど、本当にまさしくその通りで、良くないことを良くないことと認識してそれを忘れず伝え続けることは、未来にとってとても大切なことなのだと思った。

辛いこと、辛かったことは共有して繰り返さないようにする、一見簡単なように聞こえるけれど、体験談を会場で語ってくれた人の中には涙している人もいたので、辛かった体験を共有することは私が思うほど簡単なものではないのだな、ということを実感し、もらい泣きしそうになったのをぐっとこらえた。

今まで語り継いでこなかったことを悔やんでも仕方がない。50年後には確実にキャンプ経験者はこの世にいない。今からでも遅くない。今からできること、自身の経験談を語って、過ちが繰り返されないようにすること、をみんなでやっていきましょう、という形で会はまとまった。

迫害されたことを「しょうがなかった」ことなんだ、と日本人は考えがちだけど、「しょうがなかった」ではなく、どうしたらよかったのか、そしてこれからどうするべきなのか、について考えることが大事なのだという発言もまた、私は忘れることができない。

イベントの初めに鑑賞したビデオ↓