タウンシップツアーという貧困地域へのツアーは、不安だらけの中で始まった。ツアーのピックアップ先はホテルにしていたのでホテルのロビーで待っていたが、約束の時間になってもガイドが一向に現れなかったのである。フロントデスクの人にツアー会社に電話してもらったりしながら待つこと20分、やっとガイドは到着した。
到着したガイドはガイドという出で立ちとは程遠かった。ジーンズにジージャン、ドレッドヘアー、そしておしゃれな靴を履いていた。彼を待っている間に他のツアー客がガイドにピックアックされていたのを見ていたが、誰ひとりとして目の前にいる私をピックアップしにきたガイドのような人はいなかった。みんな地味だったのである。
でもすでにお金も振り込んでいるし、若く友達のような親しみやすい雰囲気のあるガイドのようだったので、まぁいいか、と安心材料を必死に探しながら一緒にロビーを出た。しかし、そこで待っていたのは一台のピカピカな白いベンツの乗用車だった。
君はとてもラッキーだね。今日は他にお客がいないからプライベイトツアーだよ。さぁ助手席にどうぞ。
ガイドにそう言われて私はますます不安になった。なんでもその日は天気がよかったので、他のお客さんは予定を変更して山登りをすることにしたのだという。しかも曖昧なことにツアーの最中にその客と合流するかもしれないし、しないかもしれないというのだ。極めつけは、ツアーのスケジュールに含まれていた博物館は、今日が祝日の振り替え休日で開いていないから行くことができないと言う。ツアー内容を見て申し込んだのに、ツアーは予定通りに催行されないことが明らかになった。日本だったら、旅行業法違反で保証問題に発展する事例である。南アフリカのおおらかさに圧倒されながら、不安な私をよそにツアーは静かにスタートした。
ホテルから17キロほど離れたタウンシップ、ランガ地区へ向かう。南アフリカにはアッパークラスが10%、ミドルクラスが20%、ローワークラスが70%いて、今から行く場所はローワークラスのエリアだということ。アパルトヘイト時代に、各地から集められ、黒人専用の居住区を作りそこをタウンシップとしたのだという。
ガイドの彼もこのランガというタウンシップの出身で、ここで生まれ育ったのだと言った。だからタウンシップの中は少し危険だと感じることもあるかもしれないけれど、知り合いもたくさんいるし安心してほしいと付け加えた。
彼はランガにある公立学校のプログラムを作るのが本業で、それをアメリカのカルフォルニアにある大学と連携しながらやっているのだと教えてくれた。学校の仕事がない時期にはこうしてガイドをしてランガのことを観光客に伝えているらしい。
車がランガ地区に入ってみて驚いた。もうそこには家というより掘っ立て小屋と呼ぶにふさわしいであろう家や、お店と呼んで良いのかわからないような青空マーケットがあったからだ。思わず私は質問してしまった。
なぜあなたはランガ出身なのに貧困を抜け出してこういった仕事ができているのか、と。その彼の答えがまた衝撃的だった。
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