戦争はいけないことだ、というのは世界共通認識だと思う。でもなぜいけないのか、という質問に具体的に答えられる人は少ないように思う。今、特に私と同じ世代の日本人にとっては。
私の祖父母は第二次世界大戦中に集団疎開をしたり、東京大空襲にあった経験があった。小さな頃にはよく戦争についての話を聞いたものだ。でもなんだろう。今、目の前で平和に幸せそうに生きている祖父母を前にすると、戦争とはいけないことだということはわかっても、なんだかあんまり実感が湧かなかった。(私の想像力不足も原因だったのかもしれない。)でもそれは私の生きている日本と、祖父母が生きてきた日本を重ねるには違い過ぎたからだったのだと思う。
クラスに韓国生まれカナダ育ちのカナダ移民のクラスメイトがいる。この記事にも登場した彼女である。ずっと不思議だった。今32歳の彼女は4歳の時にカナダに移民したらしいが、彼女が4歳の時の韓国に何の問題があったのだろう、もう朝鮮戦争は停戦状態だったはずなのに、と。
先日、機会があったので聞いてみた。なぜカナダに移民したの、と。
彼女が言うには、朝鮮戦争の頃に祖父母がブラジルに渡り、そこからアメリカ国籍を取得しようとしたのだけど失敗し、一時的にカナダに移民。機会を見て再度アメリカ国籍の申請をしようと思ったのだが、両親がカナダを気に入ったのでそのままカナダで暮らすことになったのだという。それだけでは彼女が韓国で生まれることにはならないので、もっと複雑な事情がありそうだったけれど、積極的に話したがらなかったので、深く聞くのはやめておいた。
そんな彼女はカナダ国籍で韓国国籍は持っていない。(多くの移民は二重国籍だったりするものだけど、韓国は二重国籍が違法だ。)でもカナダの大学を卒業してから韓国で英語の先生として数年働いた経験がある。彼女は外見も内面もカナダ人らしさがない。私が初めて彼女に会った時、彼女を留学生だと思ってしまったくらい韓国人オーラを出している。彼女にそれとなく言うと、小さな頃から長期休みにはよく韓国に行っていたから、一般的な韓国系カナダ人より韓国人っぽいのだと思う、と言って笑った。彼女はカナダより韓国の方が好きだとよく言っているし、韓国人としてのアイデンティティを持っている。そんな彼女は韓国国籍を持たない韓国人なのだと思った。
さて話を戻すと、戦争は何世代にもわたって人の人生に影響を及ぼす、ということがわかる。今、カナダはたくさんのシリア難民を受け入れている。それらの人は私が日常的に接する機会のない場所で生活しているので、詳しくは知らない。でも、戦争の影響をシリア難民は何世代にもわたって受けることになるのだと思う。韓国系移民の彼女のように。つまり戦争は終わったとしても戦争の影響はずっとずっと続くのだ。
今まで身近に感じたことがなかった何十年も前に起こった戦争が、少し身近に感じた瞬間だった。そしてその瞬間にやはり戦争はいけないのだ、と心から思った。