トロントでは実際の劇場でCanadian Opera Company(カナダオペラカンパニー)のオペラを鑑賞することができるが、映画館でニューヨークにあるThe Metropolitan Opera(メトロポリタンオペラ)で上演されたものも観ることができる(ライブで鑑賞できる時と、録画を鑑賞する2パターンがある)。
私は不思議でたまらなかった。だって劇場に行けば生のオペラを楽しむことができるのに、なぜわざわざ映画館でオペラを鑑賞するのだろうか、と。
というわけで早速映画館でオペラ鑑賞をしてきた。
全席指定のチケットはなんと29CADで、カナダの劇場の立ち見席の12CADよりも遥かに高かった。この金額に一瞬購入を躊躇するが、仕方がない。座って鑑賞できるので善しとして購入する。
当日映画館に到着すると、すぐに同じ上映会場に入る人たちを見つけることができた。白髪が良く似合うおじいさま、おばあさま、品の良さそうなお姉さま方はオペラの上映会場へと吸い込まれていった。
上映前には、隣のお姉さま方を始め複数の人がポップコーンにコーラを楽しんでいた。実際のオペラの劇場では座席での飲食は禁止(ロビーにはバーがあり飲食できるが)なのでなんだか変な感じだ。イタリアの文化であるオペラと、北米のポップコーンとコーラという文化の融合?が起きていた。なんともミスマッチである。私は日本に一時帰国した友人からもらった「おかき」がかばんの中に入っていることを思い出し、ぽりぽりと日本文化もまた融合させてみた。結局、ポップコーンは上映前に食べ終わっていたので、上映中は音に悩まされることはなかったが、オペラの最初の方はポップコーンのいい匂いにほんのり包まれながらの鑑賞となった。
映画館で鑑賞するオペラは、劇場で鑑賞するオペラとは全く別物だった。
劇場で鑑賞するオペラは、舞台の全体を見回すことができるので、歌い手だけでなく舞台セットやメインの歌い手以外の人を観ることができる。そしてなにより劇場という非日常感漂う素敵な空間で、生の音楽と歌声を楽しむことができるのが強みだ。
一方映画館で鑑賞するオペラは、その場面で重要な人物がアップでスクリーンに写されるので、効果的なカメラアングルを通して歌い手の表情や演技を良く観ることができる。そして字幕が他の映画と同様にスクリーンの下の方に表示されるので、字幕を追うストレスが軽減される。また今回の演目は3部構成だったが、一幕が終わるごとにある20分の休憩時間中に、出演者へのインタビューや舞台装置などの解説を聞くことができる。幕が閉まり、次の幕の準備をしている人たちを見ることができるのは面白い。オペラや演目に対する理解が深まる。
でも同時に非日常感溢れるオペラが、映画館という観賞場所と、舞台裏のリアル(現実)を見るという2つのことが重ね合わさることで、非日常感が薄まる。これは舞台裏を見ることができるのは良くない、というわけではない。単純に劇場で鑑賞するオペラと映画館で鑑賞するオペラは、比較に値しないものだと思う。
このメトロポリタンオペラによる映画館でのオペラ上映は2006年に開始され、前シーズンでは世界70ヶ国、2,200ヶ所で上映されたというから驚きだ。私は知らなかったのだが、日本でも松竹系映画館で毎年上映されているらしい。
複数のサイトを回遊して得た情報によると、メトロポリタンオペラは資金難から映画館での上映を開始したらしい。限られた劇場で限られた人しか鑑賞することができなかったオペラを、また違った形で世界中に広めてしまったのは、さすがアメリカだなと思う。
こうして映画館でオペラを楽しんだのだが、このNYにあるメトロポリタンオペラの劇場は建物がとても素敵なので、これは映画館ではなく実際のメトロポリタンオペラの劇場で生でオペラを楽しみたいという気持ちにさせられる。なんだかメトロポリタンオペラの思惑にまんまとハマっているような気がしないでもないが、またNYに行った時の楽しみが増えたな、と今から少しわくわくしている。
★カナダオペラカンパニーでのオペラ鑑賞のブログはこちら「オペラ鑑賞デビュー」
“ポップコーン片手にオペラ鑑賞ー映画館オペラ” への2件のフィードバック