アカデミー賞受賞にも貢献、フォーリー・アーティスト小山吾朗さんのスタジオ見学

トロントから北東に約70km、のどかな牧草地帯の一角に、数々のハリウッド映画に貢献・活躍し、2020年アカデミー音響編集賞受賞の「フォードvsフェラーリ」にもフォーリーとして携わった日本人、フォーリー・アーティスト小山吾郎さんのスタジオがある。そのスタジオではハリウッド映画をはじめとする様ざまな映画やドラマの音が製作され、小山さんの製作する音は、自然に発生する音よりも自然に映像に溶け込み、映像に「リアリティ」を与えていた。

なんでも他言語での吹き替え版が製作される映画などでは、実際話されたセリフを消す時に、セリフ以外の音も消えてしまうので、音(足音、洋服の擦れる音、何かが落ちる音などのほとんどの音)を映像が出来上がった後にすべてゼロから入れているのだという。

この話を聞いた時、言っている意味は理解できるが、一体それがどんなことなのかがよく想像できなかったので、今回スタジオにお邪魔して実際のレコーディングを見学させてもらった。

事務所にはこれまでに手掛けてきた映画のポスターが

獲得したトロフィーの数々

以前牧場主が所有していた建物をリノベーションしたという建物内には、スタジオが2つあり、現在は3つ目のスタジオを建設中だった。

小さめなスタジオ。床にはコンクリートが使われている。

3つ目のスタジオは建設中。なかなか広い。

スタジオは使用する道具によって使い分けを行っているらしいが、今回は体育館のような開放感のある大きなスタジオでのレコーディングだった。スタジオ内には所狭しと音を出す小道具や素材が並んでいる。

足音をレコーディングする時の靴。たくさんある。

この日は使わなかったが、車関係の音を作るエリア。

足音のレコーディング場所の一部。

小山さんは最初に足音のパートだけを最初から最後までレコーディングした後、小道具を使って制作する音を全てレコーディングし、最後に服の擦れる音を最初から最後までレコーディングするという。見学をしたこの日はカナダのテレビドラマのレコーディングの最中で、最初に足音、その後に小道具を使った音のレコーディングを行った。
レコーディングは通常3人で行われるという。音を作るフォーリー・アーティスト、音のバランスを整えるミキサー、音を映像に合わせて編集するサウンドエディターの3人だ。フォーリー・アーティストが映像に合わせて音を出し、それをモニターとヘッドセット越しにミキサーとサウンドエディターが確認をする。

サウンドエディターさんとミキサーさん

足音のレコーディングでは足音を出すキャラクターと場所の音のイメージにあった靴を履き、シーンに合うように足元の環境を整えて行われる。砂に砂利を多めに混ぜてみたり少なくしてみたり、草むらの中を歩いている音を出すためにシャワーカーテンの千切りをひいてみたり。音の響きを調節するために、シーンによって足元に板を置いてみたり外してみたり、部屋にカーテンを引いてみたり。このちょっとした工夫が音のリアルさを左右する、とても繊細な仕事だった。レコーディング中に目を閉じると、隣で誰かが草むらを歩いているように感じるから不思議だ。それだけリアルな音なのだ。

モニターに映し出された映像に合わせるようにステップを踏む小山さん。

足元に板を置いて「壁際」の音の反射を作ってレコーディング。

足音の後にレコーディングしたのはビニールの擦れる音、缶の音、など。映像を見てどんな音になるかを即座に判断しレコーディングしていく。

アルミの缶が倒れる音のレコーディング。音がぴったりすぎて衝撃。

見学していると、小山さんの凄さがわかる。

  • 音のない映像だけを見て音が発生する箇所を見つけ出す
  • 映像の範囲外の音も想像する
  • 音はありそうだが、演出で声が入りそうなところを推測する
  • どんな音かイメージする
  • イメージ通りの音を出す
  • 映像を一回見ただけで音をぴたりと映像と同じタイミングで出す

つまり、音を出す技術だけでなく、想像力やリズム感も問われる仕事である。そして一つひとつレコーディングをするという地道な仕事を積み重ねていける集中力と忍耐力。小山さんは楽しそうにレコーディングをしているように見えたが、これはなかなか出来るものではない。今回は43分間の映像を3日で差し替えるというが、普段はもっとタイトなスケジュールで仕上げるのだというから驚きだ。

とても不思議な感覚なのだが、足音のレコーディング中に足音だけに集中していたら、休憩中やレコーディング後、つまりレコーディングに関係のない足音も私の耳が認識するようになった。今まで足音は日常的に発生していた音なのに、それを必要ないと身体が認識して足音はないものとされていたのだと気が付いた。

このことを小山さんに話すと、小山さんは普段から日常の足音も聞こえていること、生活音は日本と北米では違うことを教えてくれた。私は今まで生活音について考えたことがなかったので、なんだか新鮮であると同時に、小山さんは私と同じ場所にいたとしても全然違った音を認識しているのだと思うと不思議な気持ちになった。

ちなみに小山さんは、レコーディングの前にお土産として私たちが持参したチョコレートの包装に使われていたゴムで、音を鳴らしてなにやら楽しそうに確認をしていた。仕事中だけでなく、常にどんな音がどんなものから作られるのかを考え、実験しているその姿は少年のように見えたし、それほど音に魅了されているからこそフォーリー・アーティストとして活躍されているのだと感じた。

小山さんは冒頭にも触れた2020年アカデミー音響編集賞や、エミー賞最優秀音響編集賞などを受賞するなど高い評価を受けているので、それには何か秘密があるのではと思い「音を作る時に心がけていること」について聞いてみた。小山さんは一瞬考えた後、静かに、でもどこか力強い口調で答えてくれた。

  • 求められている音をレコーディングすること(自然に近い音が良いとは限らない。映画の製作側が求めている音をレコーディングすることが大切なので自己満足になってはいけない。)
  • どんなジャンルの作品でも引き受ける

これはフォーリー・アーティストだけに言えることではなく、全てのビジネスに携わる人に言えることだ。小山さんがハリウッドで活躍されている理由の一つが分かった気がした。

日本で生まれ育った小山さんは、最初はハリウッドの映画製作者たちとは音に関する感覚も違ったはずだ。でもハリウッドの感覚を理解し身に付けながら、技術を磨きながら、色いろなジャンルに挑戦しながら、何より楽しみながら仕事をした結果が今の評価に繋がっているのだと小山さんと話す中で感じられた。

見学をさせていただいたことに感謝。見学時にレコーディングしたドラマが放送されるのを楽しみに待ちつつ(実は私もパーティーシーンの足音のレコーディングに参加させていただいた)、私も一人の日本人としてカナダでがんばっていきたいと再確認した。

靴コレクションと小山さん

公開中・近々公開の小山さんが手がけた映画作品、観に行く方は音に注目!

小山さんのことをもっと知りたい方は下記インタビュー記事をどうぞ^^

小山さんの手掛けた作品(一部)

  • 「クリード 炎の宿敵」(2019)
  • 「旅の終わり、世界のはじまり」(2019)
  • 「メリーポピンズ・リターンズ」(2018)
  • 「ブレードランナー2049」(2017)
  • 「寄生獣 完結編」(2015)
  • 「寄生獣」(2014)
  • 「許されざるもの(日本版)」(2013)
  • 「オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜」(2013)
  • 「私が愛したヘミングウェイ」(2012)
  • 「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011)
  • 「アリス・イン・ワンダーランド」(2010)
  • 「オースティン・パワーズ ゴールドメンバー」(2002)

小山さんは日本でも楽しく音作りをするワークショップを行っているそうなので、ぜひ。楽しみながらプロの技を感じられると思います^^

★小山吾郎さん twitter

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アカデミー賞受賞にも貢献、フォーリー・アーティスト小山吾朗さんのスタジオ見学” への2件のフィードバック

  1. じゅんこ のコメント:

    驚くことばかりでした!
    トロントでこんなに素晴らしい日本人が活躍されていることを知ってとてもうれしくなりました。詳しいレポートありがとうございます

    • mikiando のコメント:

      じゅんこさん、コメントありがとうございます。
      私もGoroさんの事を知り、嬉しくなった一人です^^ 私もトロントでがんばろうと改めて思いました!

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