どんな最期を迎えるのか―カナダの老人ホーム

永遠なんてものはない。モノはいつか壊れるし、人間はいつか死ぬ。なんの問題もなく健康に毎日を過ごしていると忘れがちだけど、例えば今、座っているカフェで何かが起これば私はこの世からいなくなる可能性だってあるのだ。

ご縁をいただいて、トロントの健康に問題がある人用の中国系老人アパートにお邪魔してきた。知人がアクティビティのボランティアをしているので、それのお手伝いをさせてもらったのだった。

中国系のホームだが、日本人(日系人)もある程度いて、週に1回1時間、日本語の童謡を歌うアクティビティがある。そこで私は歌詞が書いてある冊子をめくるお手伝いをしたり、入居している方と一緒に歌ったりした。

入居している方は恐らく80歳以上だと思う。カナダ生まれカナダ育ちの方もいれば、日本生まれカナダ育ちの方もいるし、カナダ生まれで日本で幼少期を過ごしカナダに戻ってきたという方もいた。でも一つ共通しているのは、恐らくすべての人が人生の長い間をカナダで過ごし、最期の時もカナダで迎えるであろう人たちだった。

最近、マーク・サカモトさんの本を読んだり、講演で日系移民の歴史について考えたばかりだったけれど、今、目の前にいる方々はとても過酷な「キャンプ」で幼少期を過ごした方ばかりなのだと思うと、想像するに余りある。

歌は日本の童謡や昔の歌が主だったが、聞くところによると入居している方はその童謡をキャンプにある日本人学校で覚えたらしい。中には日本語は話せても歌詞カードの漢字を読むことのできない人や、日本語で話しかけるより、英語で話しかけた方が反応が良い人がいた。個別に話す時間はなかったのが残念だけど、みんなカナダで日本人として日系人として力強く生きてきたのだということを感じた。

トロントには個別のバックグラウンド専用の老人ホームはないけれど(特定の国籍者やバックグラウンドに限定して募集してしまうと政府からの補助金が受け取れないというのが理由らしい)、日系のホームや中国系のホームがあり、日本に縁のある人はそこに入居を希望する人が多いのだと聞く。そこでは日本語を話せるスタッフが雇われていたり、日本式のサービスが受けられるのだ。

他のサービス業と同じように、一般的なカナダ式の老人ホームより日本式や中国式のホームの方が優しく手厚く介護してもらえるらしい。

トロントにある健康に問題ない人専用の日系の老人ホームは、何百人も入居を待っている人がいるくらい人気がある。カナダに何年住んでいようとも、カナダでの生活年数が日本を超えようとも、サービスを含め、日本に縁を持つホームを選ぶということは、私にとっては少し意外だったが、理由を聞いて納得したのだった。

日本人はどこに住んでいても、国籍を変更したとしても、やはり日本人の心を持っているのだ、と思う。入居者の方々が毎日穏やかに幸せに生活してくれることを願っている。

トロント郊外の穏やかな場所にホームはある。ホームに向かう途中で撮影。(5月下旬)

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