なんだかよくわからないうちに、私はNYで働きたいけどビザがなくて働けないNY大好きな人、にされていた。目の前にはとある有名ホテルに勤務しているという、仕立ての良いスーツにピカピカな靴を身に付けた、話の止まらないアフリカンなアメリカ人。しかもちょっとイケメン。彼は私がNYで働く方法がないかビザの検索をし始めてしまった。
NYでwifi難民だった私は、いたるところにあるスタバでwifiをお借りしていた。そんなに頻繁にコーヒーは飲めないので、入口付近のスタンディング席でこそこそとwifiを使う。そんな私に彼は声をかけてきたのだ。いわゆるナンパである。調べ物があるからスタバに来たのに、彼に邪魔をされて全然捗らない。正直かなり迷惑だった。不機嫌さを露わにしてみても彼の話は止まらない。
ほとんど無視していたのだけど、彼はなぜNYで働かないのか、と聞いてきた。あたかも皆NYで働きたがっている、という前提で。私はトロントが好きなので、NYで働くなんて考えたこともなかったが、それを説明するのも面倒なので、「NYで働くには就労ビザが必要で、それを取得することは外国人にとってそんなに簡単ではないのだよ」と言った。そうしたら、である。彼は就労ビザのことを調べ始めてしまった。しまった、話が続いてしまった、と心の中で激しく後悔したけれど、それは後の祭り。彼からビザのレクチャーを受けることになってしまった。
でも話をしていてわかったことがある。それは彼が皆NYを好きに違いない、という前提で話をしているということ、彼自身もNYが大好きだ、ということだった。この感覚がなぜか私にとって新鮮だった。
トロントとNYを比較することが適切かどうかはわからないけれど、私の住んでいるトロントとNYは少し似たところがると思う。どちらも移民が多いのだ。でもトロントでトロントが大好きな人に会うことはほとんどない。私がトロントを好きだと言うと、その理由を尋ねられるほどだ。一方NYではNYを大好きだと言う人に会う。このアフリカンな彼だけでなく、NY在住の私の友人もまたNYが大好きだった。
これが、カナダは「サラダボウル」でアメリカが「メルティングポット」の理由なんじゃないかと思う。カナダはどちらかというとあまりポジィティブな理由でカナダに移民することがないので、自分のルーツの文化をとても大事にする。だからカナダに移民したとしてもカナダ人ではなく、○○系カナダ人になる。出身地を大切にした生活を送るのだ。一方で、アメリカは移民したらアメリカ人になる、と聞く。それはポジティブな理由でアメリカを選択しアメリカに移り住んできたことが関係している気がする。そしてそれがNYのパワーになっているような気がした。
そう考えると、トロントとNYは似ているようで全然似ていない都市だと思う。
私はトロントでトロントが好きなんて信じられない、と言われたとしても気にしない。好きなものは好きなのだ。東京の外れの足立区出身の私は、ほどよく都会でほどよく田舎で穏やかなトロントが住みやすい。
でもNYのパワーはかなり魅力的で、また訪問したいと思える場所だった。住むとか働くとかは別として。
いらいらしたりもしたけれど、 色々なことを考えるきっかけをくれた彼と話ができてよかった。偶然の出会いは私に色々な気付きを与えてくれる。
※ビラ配りのお姉さんがとても美しい。ビラに関連した衣装を身に纏い、ビラを配る度にポーズをとる。プロのビラ配りさんだった。