カナダでは自分で小さな事業をしている人が多い。大学のキャリアについて考えるセミナーの時に、「自分で事業を始めようと思っている人」という質問に、結構な数の学生が手を挙げていて驚いたことがある。平日の昼間にカフェに行けば、フリーランスの人と思われる人が作業をしていたり、ラフは格好で商談をしている人をよく見かける。友人と話せば、今度自分で事業をはじめようと思うんだ、とビジネスプランをカジュアルに話してくれることもある。
こんなことを言うと、もしかしたらカナダ人はチャレンジ精神に溢れているのではないか、なんて思われるかもしれないけれど、そんなことはない。すべては環境のせいだと思う。
私が聞いた話によると大きな理由が3つあるような気がする。
一つ目は終身雇用という文化がなく、ステップアップのための転職が珍しくないので人材流動性が高く、独立して失敗したとしても再度就職しやすいことが挙げられる。日本で自分で事業をしていた、なんていうとなんだか特別な人のように扱われるが、カナダでは多少はすごいねという空気にはなるけれど、それほど特別視されないような気がする。だからその分就職しやすいと思う。
二つ目はスモールビジネスのチャンスが多いことだ。移民国家なので人によって求めるモノやサービスが違う。サービス業が特にそうだ。例えば美容院を選ぶ時には、大体自分の出身国の人がいる美容院に行く。それは、「良い髪形」の基準が人種によって違う、似合う髪形も違う、髪質が違う、頭の形が違う、求められるサービスレベルが違うからだ。日本人の私は普段は日系の美容院にお世話になっている。これから韓国系の美容院には行く可能性はゼロではないけれど、アフリカ系の美容院に行くことはないと断言できる。アフリカ系の人は髪にウエーブがかかっているし、そもそもエクステやウイッグを付ける文化があるので、私の求めているサービスを受けられる可能性が低いからだ。一つ一つのマーケットは大きくないけれど、特定の人種向けのサービスは確実に存在するので、スモールビジネスは成り立つのである。
三つめは、所得税の高さである。所得額にもよるけれど、年収1千万円くらいの場合、日本では33%なのに比べカナダ(オンタリオ州)では38.16%、日本で4千万円以上の所得で45%なのに対して、カナダ(オンタリオ州)では約2千万円以上で46.16%となっている。知り合いが、せっかく稼いでも半分くらい税金に取られてしまうと嘆いていて、そんなまさかと思ったけれど、結構あり得る話だった。その知人からは稼ぎたいのであれば独立して節税するのが良いと勧められた。
ここからわかることは、結局のところ人間は置かれた環境でいかに上手く生きて行くのかを考え行動に移しているのだということだ。環境や社会ルールが人間を作り、人間が自分の生きやすい環境や社会ルールを作り出す。そうやって社会は作られているのだと思う。だからカナダではスモールビジネスが盛んなのである。チャレンジ精神とはそれほど関係がないのだ。
参考:国税庁HP / Government of Canada
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