友人は「テロ組織」の支持者になった

トロントで学生をしていた時、留学生同士の自己紹介の場では、必ず出身国を言うことになっていた。ある留学生は自己紹介で「パプア」出身だ、と言った。私は「パプア」という国は知らなかったので「パプアニューギニア」のことかと聞いてみると、違うのだと言う。なんだか話がかみ合わなかったのでGoogleMapで示してもらうと、そこはインドネシアのパプア州という場所だった。私が「インドネシア出身なのね」というと、彼はインドネシアではなく「パプア」なのだと一向に譲らなかった。会話を続けていく中で、パプア州はインドネシアから独立しようとしていることがわかった。

アジアで日本とも近く、インドネシアには旅行にも行ったことがあったので、インドネシアにそんな国内事情があったことを知って驚いた。

彼とはその後、同じグループで遊んでいたこともあって、みんなで色々な場所へ行き、色々な話をする機会があった。

インドネシア政府は、パプア州の若者をカナダに国費留学生として毎年多く送っていること。国費留学生は学費の他、生活費も政府からの援助を受けられるが、真面目に勉強しないと強制的に帰国となること(実際に知り合いの一人は強制帰国になった)。留学後はパプア州の政府機関で働くことになっていること。パプア州は鉱物資源が豊富なこと。

そのパプア男子はよく「パプアの独立について」熱く語っていて、いかにパプアがインドネシア政府からひどい扱いをされているかを主張していた。

その横で、その同じグループにいたロシア男子は、パプア男子には直接言わないものの私によく「インドネシア政府からの支援でカナダ留学をしているのに、インドネシア政府を批判するのはおかしい」と言い、独立を熱く語るパプア男子を冷ややかな目で見ていた。

普段のパプア男子は優しく穏やかで親切で、私の引っ越しの手伝いをしてくれたこともあった。一方、Facebookではライフル銃を持った兵士や戦車の画像が度々シェアされていて、それを見る度に本気で独立を願っているのだということを伺い知ることができ、私は普段とのギャップに戸惑うこともあった。

 

なぜ今このことを思い出したかと言うと、Newsweekで「爆発寸前のパプア紛争、「悪魔の部隊」による報復作戦が始まる」という記事を読んだからだ。

記事によると、

4月25日に情報機関の現地支部を率いるグスティ・プトゥ・ダニー・ヌグラハ准将が武装勢力の待ち伏せ攻撃で殺害された。

ことを発端として

ジョコ・ウィドド大統領率いるインドネシアの現政権は即座に報復を誓い、関与した全ての反政府分子を「追跡し逮捕する」よう警察と軍に命じた。

ということである。また、

パプアの独立派武装組織を全て「テロ組織」に指定した。今や国内メディアの多くがパプア独立派を「犯罪組織」と呼んでいる。

ともあるので、友人のパプア男子はインドネシア政府から見たら「テロ組織の支持者」であり、「犯罪組織」の一員ということになるのだろうと思う。

しかし、記事中には

国際人権団体アムネスティ・インターナショナル・インドネシアの調査によると、18年2月から20年12月までに治安部隊に殺されたパプアの住民は推定80人に上る。

ともある。私はそれぞれの詳しい被害状況を知っているわけではないが、これを見る限りでは、どちらも攻撃をしているようだし、死者を出しているのだということがわかる。

同じ「人を殺す」という行為でも社会的ポジションが違うだけで、社会的に許されたり許されなったりする。

私はパプア独立派を支持するつもりも支持しないつもりもないが、友人の熱い思いを随分と聞いてきたので、友人が支持する組織が「テロ組織」に認定されたと知って、なんだかとても悲しい。

最近はパプア男子と連絡は取っていないが、この出来事を受けて友人は何を感じているのだろうか。詳しい事情を知らない他国の問題だけれど、なるべく武力衝突は最小限にインドネシア政府とパプアの争いが終わることを、本当に、本当に心から願っている。月並みな言葉しか思い浮かばない自分が情けなくなるが、でもそれでも願わずにはいられない。

パプアニューギニアの横にあるのがパプア州である。州都はジャヤプラ。インドネシア首都のジャカルタとはずいぶん離れている。

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です